懲戒請求を巡る訴訟の反訴の第1回口頭弁論が昨日行われました。
弁護士懲戒請求めぐり訴訟合戦、懲戒請求した8人「住所・氏名を目的外利用された」 - 弁護士ドットコム

弁護士を懲戒請求した際に書いた住所・氏名をもとに記者会見を開かれて、誹謗中傷されたなどとして、懲戒請求者の8人がそれぞれ、東京弁護士会に所属する金竜介弁護士ら2人を相手取り、損害賠償100万円の支払いをもとめた訴訟の第1回口頭弁論が5月29日、東京地裁であった。弁護士側は、請求の棄却をもとめた。

●原告は、弁護士を懲戒請求していた

弁護士の懲戒請求は、「余命三年時事日記」というブログが発端となって、2017年に全国レベルで大量におこなわれた。このブログは、朝鮮学校への補助金交付などを求める各弁護士会の声明に反発して、読者に懲戒請求を呼びかけるものだった。

原告8人は2017年、金弁護士ら2人を含む東京弁護士会に所属する弁護士18人に対して懲戒請求をおこなった。このうち8人は、名前から在日コリアンと推認されるだけで、東京弁護士会は2018年4月、金弁護士ら2人を懲戒しないと決定した。

制度上、懲戒請求者の住所・氏名は、対象弁護士に知らされることになっている。

●原告は「住所・氏名を目的外利用された」と主張している

最高裁判例では、「事実上または法律上の根拠を欠く場合において、請求者がそのことを知りながら、または通常人が普通の注意を払えば知り得たのに、あえて懲戒請求している」場合、「不法行為にあたる」とされている。

金弁護士ら2人は2018年7月、民族差別を理由とする不当な懲戒請求で精神的苦痛を受けたとして、複数の懲戒請求者を相手取り、損害賠償をもとめて提訴した。金弁護士は当時、東京・霞が関にある司法記者クラブで記者会見を開いて、提訴したことを明らかにしたが、懲戒請求者の住所・氏名は公表していない。

原告8人は、金弁護士らが、事前告知・事後確認なしに交付された懲戒請求者の住所・氏名を目的外利用して、記者会見で原告らを誹謗中傷したり、脅かしたりしたうえ、一部の懲戒請求者を不法に提訴したなどと主張している。懲戒請求者の住所・氏名は、対象弁護士に知らされることになっている。
論点について整理しておきましょう。

最高裁判例について

こちらについては、以下の内容となります。
損害賠償請求事件 - 平成17年(受)第2126号 - 最高裁判所第三小法廷 判決 その他 東京高等裁判所

要旨

弁護士法58条1項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成する。
この事例をざっくり言えば、事件当事者間での法廷を介した恨みつらみの事案であって、当事者同士で懲戒請求が行われたことが原因であるということに尽きます。この点については、弁護士としての橋下氏の読み方が正しいと思います。橋下氏のツイートを紹介。
普通にこの判例の全文読めば、この要件を満たすのはかなり難しいことだけはわかると思います。そして、今回の懲戒請求が「事実上または法律上の根拠を欠く場合において、請求者がそのことを知りながら、または通常人が普通の注意を払えば知り得たのに、あえて懲戒請求している」ということに当てはまるのは難しいと考えます。

この点は相手側も分かってるので、別の理由付けをして論点ずらしを行ってる点についても重要なポイントになると思われます。


懲戒請求に関する最高裁判例について、橋下氏の件も取り上げる必要があります。こんk内の件は性質的にこちらの方が近いです。
損害賠償請求事件 - 平成21年(受)第1905号 - 最高裁判所第二小法廷 判決 その他 広島高等裁判所

要旨

弁護士であるテレビ番組の出演者において,特定の刑事事件の弁護団の弁護活動が懲戒事由に当たるとして,上記弁護団を構成する弁護士らについて懲戒請求をするよう視聴者に呼び掛けた行為は,次の(1)〜(5)など判示の事情の下においては,上記弁護士らについて多数の懲戒請求がされたとしても,これによって上記弁護士らの被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるとまではいえず,不法行為法上違法なものであるということはできない。
関連記事。

橋下氏の発言を「配慮を欠いた軽率な行為」としながらも、懲戒請求の呼びかけによって「被告弁護団側の弁護士業務に多大な支障が生じたとまではいえず、その精神的苦痛が受忍限度を超えるとはまでは言い難い」というのが、判決の要旨なのですが、これも懲戒請求者ではなく、当事者である弁護士同士の話なのですが、「被告弁護団側の弁護士業務に多大な支障が生じたとまではいえず、その精神的苦痛が受忍限度を超えるとはまでは言い難い」という結論が最高裁判決にて下されております。

その点においては、懲戒請求で損害賠償に該当するためのハードルは結構厳しく、最高裁判例において考えた場合、懲戒請求の権利については、かなりのレベルで認められていることがわかると思います。

大前提として、懲戒請求については認められた手続きであって、懲戒請求者も懲戒請求対象者も守られている制度であるということに尽きると思います。

日弁連の懲戒請求事案集計について

Wikipediaの懲戒請求の懲戒率について紹介します。
懲戒請求 - Wikipedia

弁護士懲戒請求の懲戒率

単位弁護士会における懲戒請求の申立に対する懲戒の割合は、わずか平均2.3パーセントであり、懲戒委員会そのものが申立人から提訴された例も複数ある。単位弁護士会が懲戒をしなかった場合は、日本弁護士連合会(日弁連)が異議申立てを受理するが、ここで再審査に至る割合もまたわずか平均1.2パーセントである。

ただし、これはいわゆる「言いがかり」や「事実に乏しい」の請求も含まれている。
これを見る限り、懲戒請求の申立に対する懲戒の割合は、わずか平均2.3パーセントであるようです。この中には、懲戒請求に該当しない請求も含まれております。

日弁連の「2018年 懲戒請求事案集計報告」を紹介します。

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2018/5-3-15_tokei_2018.pdf

重要なのは「懲戒審査開始件数」に尽きます。ほとんどの件において、懲戒審査前に懲戒請求として処理しないか、懲戒しないという処理が行われていることが分かります。

この数字が全てですが、余命関連の懲戒請求の処理について門前払いされているように見えるし、この点は日弁連会長の声明にも出ております。
日本弁護士連合会:全国各地における弁護士会員多数に対する懲戒請求についての会長談話

近時、当連合会や弁護士会が一定の意見表明を行ったことについて、全国の21弁護士会に対して、800名を超える者から、その所属弁護士全員を懲戒することを求める旨記載した書面が特定の団体を通じて送付されてきている。これらは、懲戒請求の形をとりながらも、その内容は弁護士会活動に対して反対の意見を表明し、これを批判するものであり、個々の弁護士の非行を問題とするものではない。弁護士懲戒制度は、個々の弁護士の非行につきこれを糾すものであるから、これらを弁護士に対する懲戒請求として取り上げることは相当ではない。私は、本年12月21、22日開催の当連合会理事会において、各弁護士会の会長である当連合会理事にこの旨をお伝えした。各弁護士会においてしかるべく対処されることを期待する。
この談話からみても、余命関連の懲戒請求が「懲戒請求の要件を満たしていない」とみなされていることは明白ともいえる数字が出ていると思われます。そして、大量懲戒請求について、日弁連として懲戒請求の処理は行わないのが原則にあると推察します。

懲戒請求者の個人情報について

これらの内容を踏まえると、懲戒請求の制度としては、懲戒請求者も懲戒請求対象者も守られる形の運用がされていると見ていいと思います。これがいいか悪いかは別の問題ですし、今回の一連の事案として重要ではないでしょう。

「制度上、懲戒請求者の住所・氏名は、対象弁護士に知らされることになっている」とありますが、弁護士会の慣例では認められたとしても、これが個人情報保護法だったり、懲戒請求の手続きの観点から問題ではないか??というのはあると思います。

懲戒請求の手続きは、対象の弁護士に行われるものではなく、対象の弁護士の所属する弁護士会に対して行われるものです。報復訴訟としか思えない弁護士からの一連の訴訟については、訴訟の正当性があるのか??というのが、本来の裁判の争点のはずです。

この件については、弁護士会が懲戒請求者を訴えるなら分からなくもないのですが、懲戒請求対象の弁護士が訴訟を起こすということが問題だと思いますがね。もしくは、懲戒請求を煽った余命ブログを弁護士会が訴えるなら分かる程度の話ですが、最高裁の判例からも、当事者の弁護士同士のいざこざの話の訴訟であって、一個人である懲戒請求者に対して、法律の専門家である弁護士が、法に疎い一個人に対して、そもそも懲戒請求に値しないような事案に対して、手続き上不適切な情報を元にスラップ訴訟を行ってるというのが、今回の懲戒請求事案の本質ともいえます。

ここで他の士業における懲戒請求者の個人情報の取り扱いについて紹介します。

8士業を紹介します。

士業 - Wikipedia


海事代理士以外の懲戒請求については、小坪市議が照会かけてたので記事を紹介します。

【懲戒請求戦線】各士業会からの回答~訴訟への流用を容認している士業会は? | 小坪しんやのHP~行橋市議会議員

【懲戒請求戦線】国会議員に対する監督官庁からの回答 | 小坪しんやのHP~行橋市議会議員

各士業への懲戒請求制度と個人情報に関する中間報告(今だから言えること)【共に現実を動かす人はシェア】 | 小坪しんやのHP~行橋市議会議員

弁護士会からの公式回答~懲戒請求制度について | 小坪しんやのHP~行橋市議会議

これを見ると、当事者同士の話である弁理士と、日弁連については、懲戒請求者の情報が行き渡ってますが、それ以外については、懲戒請求者の情報は保護されていることが分かると思います。その点では、弁護士会も苦しい状況にも思えるけどねwww


これらを通じても、弁護士会の言い分としてどうかと思う以上に、「制度上、懲戒請求者の住所・氏名は、対象弁護士に知らされることになっている」というのと、それを元とした報復訴訟について、どの程度の正当性があるのかというのが、本当の論点だと思いますし、法的強者である弁護士や裁判官が、法的弱者である一般人を蹂躙するようなことがあれば、三権分立の観点からも、立法の立場から、司法を担保している裁判官法や弁護士法などの見直しが必要だと思います。