今日は自社株買いに関する内容です。

まずは記事の紹介。
自社株買い急増、9割増の3兆4000億円 19年度計画  :日本経済新聞

上場企業の自社株買いが急増している。2019年度の自社株買い計画額は21日時点で、約3兆4千億円と前年同期比9割増だった。三菱地所など資本効率を改善するため、株主への還元策を見直す企業が相次いでいるためだ。ファナックなど減益でも自社株買いに踏み切る例も増えている。18年度の自社株買い額は日銀の上場投資信託(ETF)の買い入れ額を上回り、日本株の重要な下支え役となっている。

日銀の金融緩和政策などを背景に、上場企業は潤沢な手元資金を抱える。ただ経営者は大規模な設備投資には依然として慎重だ。コーポレート・ガバナンス(企業統治)改革の進展で「従来よりも資金の使い道を問う投資家の視線が厳しくなっている」(三井住友トラスト・アセットマネジメントの上野裕之シニアストラテジスト)。消去法的に自社株買いに資金を充てる企業が増えている。

自社株買いは、企業が発行した株式を自社で買い取り、市場に流通する株式を減らす行為を指す。株式需給が引き締まり株価を高める効果があるほか、1株当たりの利益も増える。少ない資本でどれだけ効率的に稼ぐかを示す指標、自己資本利益率(ROE)を底上げする効果もある。

4月1日から5月21日までに発表した自社株買い計画額(取得枠)を集計したところ、合計額は約3兆4100億円と、前年同期(1兆7700億円)と比べて93%増となった。計画を発表した企業数も約230社と3割増えた。(中略)

今期の純利益を6割減と発表したファナックは3年ぶりに自社株買いを発表した。前期に13%減益だった旭化成は、17年ぶりに自社株買いを行う。19年12月期に2割の減益を見込むキヤノンは、2年ぶりに500億円の自社株買いを計画し、金庫株を通じてM&A(合併・買収)に備える。

日本の18年度の自社株買い額は6兆680億円に達し、日銀のETF買い入れ額(約5兆6500億円)を上回った。ただ米ゴールドマン・サックスによると、米国は主要上場企業500社だけで、年8000億ドル(約88兆円)と巨額の自社株買いを実施する。日本は米国に比べて大きく見劣りしており、市場では「日本企業はまだ拡大の余地がある」との声が多い。

記事を見ると、今年度は自社株買いが急増しているようです。自社株買いを行うにはいろんな目的がありますが、大きくは株価対策、株主還元といった感じの所謂株主対策と言われており、手法・目的によって意味合いが異なってくるのはあります。

今回の場合は、米中関係、EU関係など、株価にネガティブな影響をもたらすイベントが控えており、12年ぶりの逆イールドであるのもあって、株価下落は明白な状況となっております。そのため、自社株買いは株価の下支え効果も見込めることからも、株主還元という要素よりは、消極的理由での自社株買いで増えてる可能性が高いです。別の理由もあるとは思いますが、今は様子見が必要といった感じになると思われます。

自社株買いの意味、効果などについて、記事を紹介などを紹介していきます。

自社株買いについて

自社株買いの意味は以下となります。
自社株買い|投資の時間|日本証券業協会

・意味
自社株買いとは、上場企業が自らの資金を使って、株式市場から自社の株式を買い戻すことをいう。

・解説
株式市場から自社の株式を購入してその株式を消却する(無効とする)ことで、会社の発行済み株式総数が減少し、1株当たりの価値は高くなります。
「1株当たりの当期利益」も増加することになり、自社の利益の一部を株主に支払うのと同じ効果となるため、配当と同様に株主還元策の一つとされています。
ただし、購入した株式を消却するか否かは企業側に任されており、会社が「金庫株」として、株式のまま保有するケースもあります(後で目的を決めて売却し、企業の手元資金とすることも可能)。
自社株買いは株式市場から自社の株式を買い戻し、市場に出回る株式を減らす効果があります。自社株買いは、1株あたりの価値が高くなることから、株式市場では基本的にポジティブに受け取られ、株主還元策の一つとされております。

企業自身が自社株を取得し、保有している株式を自己株式といいます。自己株式については、Wikipediaを紹介します。

自己株式 - Wikipedia

自社株買いした株式は、以下のいずれかの処理を行います。

・売却:売却することにより手元資金となる
消却:消却した場合、会社の発行済み株式総数が減少し、1株あたりの価値の上昇
金庫株:株式の保有。M&Aやストックオプションや企業防衛策の一つ

即ち、自社株買い後の処理によって、本来の意味が異なりますが、自社株買いは基本的にポジティブに受け取られる傾向があることから、どのような処理を行ったとしても、成功すればそれなりのメリットはあります。当然、デメリットはあるのは事実で、自社株買いをするというのは、市場にどのようなメッセージを打ち出すかにもよります。自社株買いで想定されるメリットとデメリットです。

○メリット
・売却:株価の安い時に自社株買いを行い、高い時に売却すれば手元資金が増える
・消却:1株の価値を上昇させ、ROEの改善による株価と企業価値の向上
・金庫株:選択肢を増やす

○デメリット
・売却:株価としてネガティブな影響、売買による損益によるリスク
・消却:自己資本比率の縮小、市場へ資金献上
・金庫株:株価としてネガティブな影響、自己資本の圧迫

即ち、特性を把握した上で活用すればデメリットはほとんどないが、自己株式は他の資産のように譲渡や売却ができない為、資金に余裕がなければリスクとなるので、注意が必要となります。

ここで問題となるのが「消却」となります。これに関しては具体的にメリットとデメリットが見えにくいのもあり、行き過ぎた自社株買いについては問題となる場合もあります。

自社株買いの問題点

以下の記事を紹介します。
世界の株主還元、10年で倍増 18年度、最高の265兆円  :日本経済新聞

世界の企業が株主に回すお金を増やしている。配当と自社株買いの合計額は2018年度に過去最高の2兆3786億ドル(約265兆円)と金融危機の影響が強く出る前の08年度比倍増する見通しだ。世界の設備投資額にも匹敵する規模に膨らんでおり、企業のお金の使い方を表す資金配分の長期的な変化を表している。金融緩和で資金が大量に出回っているところに、企業がさらに還元を通じてお金を資本市場に配分することでカネ余りを増幅している。(中略)

従来は企業の主要な資金振り向け先だった設備投資額は伸び悩む。17年度に2兆2554億ドルと直近ピーク(14年度)比6%減の水準だ。一方で企業はより長期の成長分野を探る研究開発費は増やしており、世界全体の研究開発費合計は17年度に過去最高の0.67兆ドルだった。それでも設備投資と研究開発費の合計でみても、10年前に倍以上離れていた還元額との差は直近で2割程度まで縮小した。(中略)

株主還元という選択は他に有望な投資先のない消去法の側面もある。

米アップルは18年度に595億ドルの純利益を稼ぎ出したが、それを上回る規模の727億ドルを自社株買いに回した。他に18年度に自社株買いを増やした企業の上位にはバンク・オブ・アメリカやウェルズ・ファーゴなど銀行も目立つ。成長企業に資金を回すという銀行の本来の役割を果たせていない。

企業部門には還元を増やしても使い切れないお金が積み上がる。世界合計の企業の手元資金額は17年度に初めて5兆ドルを突破した。

お金がたまると、投資家は資金効率の観点からさらなる還元姿勢を強める。本来、成長分野にお金を回す役割を担う株式市場で投資家が株主還元ばかりを重視するようになれば「特定の企業にお金が集中し、富が偏在しかねない」(みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミスト)との指摘がある。

市場を通じた格差拡大の弊害も無視できず、米国では一部で行き過ぎた自社株買いを規制する議論も浮上している。
全体の傾向として、自社株買いだけの問題ではないのですが、これらの状況は資本市場にカネが滞留するというカネ余り(実市場ではカネ不足)というバランスが歪んでおり、設備投資に回してる資金を、消去法的な位置づけで、株主還元など資本市場に滞留させているのも、自社株買いの背景の一つであるということになります。

マトモな経済状態であれば、実市場に投資をして回収するのが健全なのですが、現状だとバランスがおかしいので、資本市場や特定の企業にお金が集中することにより、格差拡大を招いてる側面があり、金融経済の実害として出てきてるわけです。このモデルの構築を意図的にやってるという一面もあるのは言うまでもないし、これがグローバル資本主義とかいうものの本質ともいえるわけですがね。

ここらへんは私的ビジネス講座で以前取り上げましたwww
ぱよぱよ雑談~20190212-ぱよぱよ日記

1.ビジネスモデルは見えないものや解決策が難しいものが基本となる
2.利便性ではなく、不平不満こそがビジネスチャンスとなる
3.階層を固定させることがビジネスサイクルの基本
4.問題解決能力の欠如こそがビジネスにおいて一番重要
ここでは、3.の階層の固定というビジネスサイクルの構築という役割を果たしております。当然の話ですが、「米国では一部で行き過ぎた自社株買いを規制する議論」もあるというのは、日本はそこまではないけど、アメリカではえげつない状態になってるのは明白です。

「米アップルは18年度に595億ドルの純利益を稼ぎ出したが、それを上回る規模の727億ドルを自社株買いに回した」とありますが、普通に考えて、マトモな経済状態とは言えない代物で、設備投資などの実経済に回すための資金を、特定のところで資金を滞留させて、資金循環のサイクルを構築していることが、自社株買いの問題点の1つともいえます。

日本の金庫株に関する事情

以下の記事を紹介します。
自社が筆頭株主335社 消却やM&A、活用少なく  :日本経済新聞

上場企業が保有する自社株が市場の関心を集めている。日本経済新聞社の調べでは2017年度末に自社が筆頭株主になっている企業は335社と全体の1割近い。積極的な自社株買いが続くとともに「金庫株」として持ち続ける企業が多い。消却やM&A(合併・買収)への活用が課題になっている。

東京証券取引所によると全国の上場企業では2017年度末時点で自社が保有する株式の比率は3.75%と、1999年に集計を始めて以来最高となった。自社が筆頭株主の企業は前年より減ったが、全体の自社株の保有額は株高の影響もあって1年前に比べ18%増えている。(中略)

株価の安い時に自社株を買い入れ、高くなれば売り出すことは上場企業として正当な資金調達の手段だ。昭和電工は3月に自社株600万株を海外で売り出した。借入金の返済にあて「財務体質の改善に自社株を有効活用した」(同社)。ただ発表翌日の株価は6%安と急落。投資家は金庫株が再び市場に放出され一株あたり利益が希薄化することを好まない。

NTTドコモやKDDIなどは、発行済み株式に占める金庫株の比率が5%を超えた分を消却するルールを定めるが、こうした企業はまだ少数だ。ゴールドマン・サックス証券の鈴木広美ストラテジストは、「現預金などの手元資金と同様、有効な使い道がないのであれば消却して株主に還元すべきだ」と指摘している。

一方で自社株はM&Aや合従連衡の一つの手段だ。トヨタは昨秋のマツダとの提携にあたり、自社株約829万株をマツダに割り当てた。熊谷組も住友林業と手を組み自社株31万株を新株発行とあわせて割り当てた。

小規模な出資案件では金庫株が用いられているが、欧米企業がM&Aで自社株を積極的に活用するのと比べると機動性に欠ける。経済産業省によると、1998~16年に買収目的のTOBで対価に自社株を活用した割合は米国で5割を超え英国は8割を占めたが、国内はゼロだった。
これが何を意味するかと言えば、多くの企業で自社株買いをしても、塩漬けにしている事実があり、自社株買いを活用出来ていないのではなく、株価対策だったり、合従連衡といった選択を取ってる傾向があるようです。M&AやTOBもそうだけど、基本的にリスクを回避して合理的に動いてるから起きてる話ですが、ここらへんは海外から評判が悪いようです。

ゴールドマン・サックスの人が「消却して株主に還元すべき」という発言からみても、日本企業の自社株買いについて、金庫株を抱え込むことによる悪しき慣行といった感じで揶揄してることからも、恐らく都合が悪いといった意味合いの記事と思われます。

自社株買いと金庫株の特性を考えると、今後のカードになる可能性もあるように思います。M&Aについても国ごとで考え方が異なるし、アメリカの場合、自社の発展よりは、高く売却してストックを得ることを目的としている一面があるので、M&Aが活発といった理由もあります。アメリカの場合は買収されるというのはステータスであり、日本の場合は買収されることについてネガティブな印象を持ってるというのはあるし、同じルールで動くわけがありません。

結局は、いろんな意味で特性を理解して行動出来るかどうかという話で、自社株買いの持つ意味というのは、価値観で異なるし、あくまで選択肢の一つに過ぎないということが重要だと思います。