元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明
どっかで見かけた人がいたので紹介します。
前田朗Blogより。
記事の紹介。
https://web.archive.org/web/20181108135431/http://maeda-akira.blogspot.com/2018/11/blog-post_6.html
前田朗Blogより。
前田朗 - Wikipedia
前田 朗(まえだ あきら、1955年 - )は、日本の法学者。専攻は刑事人権論、戦争犯罪論。東京造形大学教授。アフガニスタン国際戦犯民衆法廷実行委員会共同代表。無防備地域宣言運動全国ネットワーク呼びかけ人。日本民主法律家協会理事、在日朝鮮人人権セミナー事務局長。
在日朝鮮人の人権に関する運動を行っている。2002年に金正日が犯行を認めた北朝鮮による日本人拉致問題については、刑事法学者として《『拉致疑惑』の刑事法的検討》と題して2001年4月に岩波書店の世界に「拉致が事実だとすれば、国家主権の侵害であり、刑事犯罪であり、基本的人権の侵害」とはしたが、「日本政府は捜査上の理由をタテに証拠を明示していない。これでは法的手続に則って真相を究明することはできず、北朝鮮への非難も単なる誹謗中傷にしかならない。」と『拉致疑惑』提起する者を批判して「犯罪事実を示す根拠があるならば、国交正常化を図り、根拠を明示して解決をめざすべき」などと主張していた。
1998年8月31日に北朝鮮が周辺国への事前通告も告知もなしに打ち上げた「衛星」と称したミサイルを大気圏外へ突入させた後に日本列島上空を通過し太平洋上に落下させた事案(北朝鮮によるミサイル発射実験 (1998年))について、「北朝鮮から事前通告がなかった」と非難する日本政府の姿勢に対し、衛星打ち上げを日本が北朝鮮に対して事前通告、中国に対して事前通告を行うよう求めたことがないとして日本が批判することは相互主義に反すると主張している。しかし、日本はいつ、どこで、何を打ち上げるかきちんと事前にマスコミなどを通して国内外へ告知しているし、北朝鮮はそれでも批判している。また、この事案に際し、在日朝鮮人への嫌悪が起きると予測された事態に対し、政府もマスコミもなんら対策を取らないとして批判している 。前田は朝鮮大学校においても朝鮮大学校政治経済学部講師として教鞭を執っている。
記事の紹介。
https://web.archive.org/web/20181108135431/http://maeda-akira.blogspot.com/2018/11/blog-post_6.html
元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明
韓国大法院(最高裁判所)は、本年 10 月 30 日、元徴用工 4人が新日鉄住金株式会社(以 下「新日鉄住金」という。)を相手に損害賠償を求めた裁判で、元徴用工の請求を容認した差し戻し審に対する新日鉄住金の上告を棄却した。これにより、元徴用工の一人あたり1億ウォン(約1千万円)を支払うよう命じた判決が確定した。
本判決は、元徴用工の損害賠償請求権は、日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支 配及び侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被 害者の日本企業に対する慰謝料請求権であるとした。その上で、このような請求権は、1965 年に締結された「日本国と大韓民国との間の財産及び請求権に関する問題の解決と経済協力に関する協定」(以下「日韓請求権協定」という。)の対象外であるとして、韓国政府の 外交保護権と元徴用工個人の損害賠償請求権のいずれも消滅していないと判示した。
本判決に対し,安倍首相は、本年 10 月 30 日の衆議院本会議において、元徴用工の個人 賠償請求権は日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決している」とした上で、本判決は「国際法に照らしてあり得ない判断」であり、「毅然として対応していく」と答弁した。
しかし、安倍首相の答弁は、下記のとおり、日韓請求権協定と国際法への正確な理解を欠いたものであるし、「毅然として対応」するだけでは元徴用工問題の真の解決を実現することはできない。
私たちは、次のとおり、元徴用工問題の本質と日韓請求権協定の正確な理解を明らかに し、元徴用工問題の真の解決に向けた道筋を提案するものである。
1 元徴用工問題の本質は人権問題である
本訴訟の原告である元徴用工は、賃金が支払われずに、感電死する危険があるなかで溶鉱炉にコークスを投入するなどの過酷で危険な労働を強いられていた。提供される食事もわずかで粗末なものであり、外出も許されず、逃亡を企てたとして体罰を加えられるなど極めて劣悪な環境に置かれていた。これは強制労働(ILO第 29 号条約)や奴 制(1926 年奴隷条約参照)に当たるものであり、重大な人権侵害であった。
本件は、重大な人権侵害を受けた被害者が救済を求めて提訴した事案であり、社会的にも解決が求められている問題である。したがって、この問題の真の解決のためには、被害者が納得し、社会的にも容認される解決内容であることが必要である。被害者や社会が受け入れることができない国家間合意は、いかなるものであれ真の解決とはなり得ない。
2 日韓請求権協定により個人請求権は消滅していない
元徴用工に過酷で危険な労働を強い、劣悪な環境に置いたのは新日鉄住金(旧日本製鐵)であるから、新日鉄住金には賠償責任が発生する。
また、本件は、1910 年の日韓併合後朝鮮半島を日本の植民地とし、その下で戦時体制 下における労働力確保のため、1942 年に日本政府が制定した「朝鮮人内地移入斡旋要綱」による官斡旋方式による斡旋や、1944 年に日本政府が植民地朝鮮に全面的に発動した「国民徴用令」による徴用が実施される中で起きたものであるから、日本国の損害責任も問題となり得る。
本件では新日鉄住金のみを相手としていることから、元徴用工個人の新日鉄住金に対 する賠償請求権が、日韓請求権協定 2 条 1 項の「完全かつ最終的に解決された」という条項により消滅したのかが重要な争点となった。
この問題について、韓国大法院は、元徴用工の慰謝料請求権は日韓請求権協定の対象に含まれていないとして、その権利に関しては、韓国政府の外交保護権も被害者個人の賠償請求権もいずれも消滅していないと判示した。
他方、日本の最高裁判所は、日本と中国との間の賠償関係等について、外交保護権は放棄されたが、被害者個人の賠償請求権については、「請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく、当該請求権に基づいて訴求する権能を失わせるにとどまる」と判示している(最高裁判所 2007 年 4 月 27 日判決)。この理は日韓請求権協定の「完全かつ最終的に解決」という文言についてもあてはまるとするのが最高裁判所及び日本政府の解釈である。(註1 )
この解釈によれば、実体的な個人の賠償請求権は消滅していないのであるから、新日鉄住金が任意かつ自発的に賠償金を支払うことは法的に可能であり、その際に、日韓請求権協定は法的障害にならない。
安倍首相は、個人賠償請求権について日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決した」と述べたが、それが被害者個人の賠償請求権も完全に消滅したという意味であれ
ば、日本の最高裁判所の判決への理解を欠いた説明であり誤っている。他方、日本の最高裁判所が示した内容と同じであるならば、被害者個人の賠償請求権は実体的には消滅しておらず、その扱いは解決されていないのであるから、全ての請求権が消滅したかのように「完全かつ最終的に解決」とのみ説明するのは、ミスリーディング(誤導的)である。
そもそも日本政府は,従来から日韓請求権協定により放棄されたのは外交保護権であ り,個人の賠償請求権は消滅していないとの見解を表明しているが,安倍首相の上記答弁は,日本政府自らの見解とも整合するのか疑問であると言わざるを得ない。(註2 )
3 被害者個人の救済を重視する国際人権法の進展に沿った判決である
本件のような重大な人権侵害に起因する被害者個人の損害賠償請求権について、国家 間の合意により被害者の同意なく一方的に消滅させることはできないという考え方を示 した例は国際的に他にもある(例えば、イタリアのチビテッラ村におけるナチス・ドイツの住民虐殺事件に関するイタリア最高裁判所(破棄院)など)。このように、重大な人権侵害に起因する個人の損害賠償請求権を国家が一方的に消滅させることはできないという考え方は、国際的には特異なものではなく、個人の人権侵害に対する効果的な救済を図ろうとしている国際人権法の進展に沿うものといえるのであり(世界人権宣言 8 条参照)、「国際法に照らしてあり得ない判断」であるということもできない。
4 日韓両国が相互に非難しあうのではなく、本判決を機に根本的な解決を行うべきである
本件の問題の本質が人権侵害である以上、なによりも被害者個人の人権が救済されなければならない。それはすなわち、本件においては、新日鉄住金が本件判決を受け入れるとともに、自発的に人権侵害の事実と責任を認め、その証として謝罪と賠償を含めて被害者及び社会が受け入れることができるような行動をとることである。
例えば中国人強制連行事件である花岡事件、西松事件、三菱マテリアル事件など、訴訟を契機に、日本企業が事実と責任を認めて謝罪し、その証として企業が資金を拠出して基金を設立し、被害者全体の救済を図ることで問題を解決した例がある。そこでは、被害者個人への金員の支払いのみならず、受難の碑ないしは慰霊碑を建立し、毎年中国人被害者等を招いて慰霊祭等を催すなどの取り組みを行ってきた。
新日鉄住金もまた、元徴用工の被害者全体の解決に向けて踏み出すべきである。それは、企業としても国際的信頼を勝ち得て、長期的に企業価値を高めることにもつながる。韓国において訴訟の被告とされている日本企業においても、本判決を機に、真の解決に向けた取り組みを始めるべきであり、経済界全体としてもその取り組みを支援することが期待される。 日本政府は、新日鉄住金をはじめとする企業の任意かつ自発的な解決に向けての取り組みに対して、日韓請求権協定を持ち出してそれを抑制するのではなく、むしろ自らの責任をも自覚したうえで、真の解決に向けた取り組みを支援すべきである。
私たちは、新日鉄住金及び日韓両政府に対して、改めて本件問題の本質が人権問題であることを確認し、根本的な解決に向けて取り組むよう求めるとともに、解決のために最大限の努力を尽くす私たち自身の決意を表明する。
(註1 )山本晴太「日韓両国政府の日韓請求権協定解釈の変遷」(2014 年)参照。 http://justice.skr.jp/seikyuuken-top.html
(註 2) 1991 年 12 月 13 日参議院予算委員会,1992 年 2 月 26 日衆議院外務委員会,1992 年 3 月 9 日衆議院予 算委員会における柳井俊二条約局長答弁,1992 年 4 月 7 日参議院内閣委員会における加藤紘一外務大臣答弁等
2018年11月5日
(呼びかけ人・弁護士)※五十音順(一部にずれがありますがご容赦ください)敬称略
青 木 有 加 足 立 修 一 岩 月 浩 二 殷 勇 基 内 河 惠 一 大 森 典 子 川 上 詩 朗 金 昌 浩 在 間 秀 和 張 界 満 山 本 晴 太
(賛同人・弁護士)
赤 石 あゆ子 秋 田 智佳子 泉 澤 章 伊 藤 真 井 上 明 彦 井 上 啓 井 上 正 信 猪 野 亨 岩 佐 英 夫 内 田 雅 敏 大 江 京 子 大久保 賢 一 金井塚 康 弘 北 澤 貞 男 全 東 周 金 星 姫 金 喜 明 桑 原 育 朗 玄 政 和 小 林 保 夫 小 牧 英 夫 佐 藤 博 文 澤 藤 統一郎 志 田 なや子 清 水 善 朗 下 山 順 鈴 木 雅 子 高 貝 亮 高 崎 暢 高 橋 済 高見澤 昭 治 田 中 貴 文 辻 田 航 野 上 恭 道 端 野 真 林 治 平 田 かおり 福 山 洋 子 船 尾 徹 星 野 圭 南 典 男 宮 坂 浩 毛 利 正 道 安 原 邦 博 山 田 延 廣 山 田 博 米 山 秀 之 李 尚 昭 渡 辺 和 恵 韓 雅 之 金 奉 植 原 田 學 植 新 倉 修 宋 昌 錫 宋 惠 燕 中 谷 雄 二 米 倉 勉 米 倉 洋 子 李 博 盛 齋 藤 耕 裵 明 玉 長谷川 一 裕 山 内 益 恵 白 川 秀 之 空 野 佳 弘 幸 長 裕 美 奥 村 秀 二 林 範 夫 武 村 二三夫 宇賀神 直 角 田 由紀子 矢 﨑 暁 子 藤 井 裕 金 銘 愛 神 保 大 地 具 良 鈺 丹 羽 雅 雄 向 山 知 谷 次 郎 五十嵐 二 葉 幣 原 廣 仲 松 大 樹 穂 積 剛 田 巻 紘 子 魚 住 昭 三 佐 藤 むつみ 今 橋 直 愛 須 勝 也 新 山 直 行 金 竜 介 韓 検 治 久 野 由 詠 田 中 健太郎 石 川 元 也 年 森 俊 宏 水 野 幹 男 北 村 栄 森 山 文 昭
(賛同人・学者研究者)
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